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セカイ通信 ANTWERP

セント・ニコラウスとストリッパー

Text : Hatsue Mogi

皆様、はじめまして。ベルギーからのお便りを書かせていただくことになった茂木初恵です。Mirroir代表の渡邊雅美さんは、私の母校である成城学園の後輩であり、ベルギー成城会発足時からの実に頼れる仲間です。

彼女は可愛いくて魅力的なだけでなく、クレバーで時代を読む目に優れています。好奇心旺盛でいつもワクワクするような企画を持っていて感心させられます。彼女の持つ強いポジティブオーラは、そばに寄ればこちらも自然に輝いてくるかようです。

きっとQorretcolorageにもたくさんの面白いことが起こるのであろうと楽しみにしています。

私はベルギー人と結婚をして、アントワープに暮らして20年。子供も手を離れ、スポーツ、音楽など、ちょっと好きな事をさせてもらい、ようやく最近になってヨーロッパの人々の暮らしの根底にあるものがおぼろげながらにわかってきたところです。好奇心いっぱいの素敵なMirroirメンバーの皆さまにそんなヨーロッパの日々を少しでもご紹介できればと思っています。

少し季節遅れの話題かもしれないけれど、ベルギーのクリスマスの飾り付けは遅い。12月になってからやっと始まる。クリスマスの前、12月5日には「セント・ニコラウス」という子どもたちのお祭りがあり、その日まではその飾り付けでいっぱいなのである。そしてその2週間後に今度は本番のクリスマスのイベントが待っているので、子どもたちは短い間に2回もプレゼントをもらえる仕組みになっている。「セント・ニコラウス」はその名でもわかるように、いわゆるサンタクロースの原型であると言われている。なぜかその「原型のおじさま」はドイツ、オランダ、ベルギー方面限定で、1年間お利口にしていた子どもたちに欲しいものを持ってきてくれるのだ。

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私も今年はとっても欲しいものがあり、実は大いにお利口さんにしていた。その甲斐あって、セント・ニコラウスでもサンタさんでもまあどちらでもいいのだがついに持ってきてくれた!

2年前、ちょっとしたきっかけで始めたピアノ。続くかどうかもわからないし、とりあえずデジタルピアノを買って恐る恐る地元のアカデミーに通い始めた。アントワープのミュージックアカデミーは市の援助があり、1年間たったの200ユーロで、好みの楽器の個人レッスンとセオリーやアンサンブルまで教えてもらえる。(その分、ベルギーはヨーロッパでも随一、税金が高いことで有名。)だから利用しなければ損。通常、学校に音楽の授業がない子どもたちも放課後にここに通ってくる。日本では義務教育で音符はある程度読めるようになるが、こちらはまったく読めない人がほとんど。そのためかカラオケは下手だという評判である(笑)。

何でも学校というものが好きな私はせっせと練習して通うようになり、すっかり面白くなってしまった。しかしハマリ始めるとデジタルピアノじゃどうにも物足りなくなくなってくる。おまけにうちの犬は電子音がつらいのか、テクニック不足のせいか、私が弾き始めるとさっさと2階に上がって行ってしまう。弾き終わるといつの間にか、さっとまた私の隣に座っている。寂しいではないか(笑)。

“本物のピアノがほしい!”

いつの間にか呪文のように唱えるようになった私を夫も息子もそして犬も相当恐れていたに違いない!

1年前の初めての発表会のとき、感情をなにかに思い切り込めて、それを褒められるという、いい大人になってからは初めての経験をした。これがたまらなく楽しい。病みつきになった。はたから見たら気味悪かろうが、自分の描いた世界の中にどっぷりつかれるのがいい。

その上、日照時間の少ないヨーロッパの冬は重く湿っていて嫌になるぐらい長い。家の中で楽しめることをたくさん持っていないとその暗さに押しつぶされる。

そうこうするうちに真っ白な初雪がポツポツと庭に水玉模様を描いて冬の到来を告げ、私が本物のピアノを買わなければならない25の理由が揃った頃、都合よくデジタルピアノのペダルが壊れた。使い潰したのだ!こういうのを神様、サンタクロース、セント・ニコラウス様がくれたチャンスというのでしょうか!

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冬とは思えないような暖かなある週末,朝からピアノ店を先生と夫と3人で次々と4軒ほど回った。脳内が爆発しそうになるぐらい迷い、ついにこのセカンドハンドのヤマハが家に運ばれてくることになった。その時、私の頭上でエンジェルたちが祝福してくれている図が浮かんでいたことを白状しましょう。

ドイツが世界に誇る3大ピアノではないけれど、私自身がセカンドハンドのようなもの(?)だし、このへんが落としどころじゃないだろうか。それでもグランドピアノにこだわった。音色の広がりが違うし、うちの周りは森である。移り変わる窓の外の景色を見ながら自己満足で弾く絵を思い浮かべてみるとそれはどうしてもグランドピアノで無ければならない。

案の定、犬はピアノのそばで気持ちよさそうに寝ているか、聴いているか。そしてピアノもまるで愛し始めたペットのように私の出したい音を出そうと努力してくれる。

デジタルとは天と地ほどの楽しみの違いがある。

ピアノを始めてからここアントワープでは毎日のようにどこかしらでクラシックに限らず大小のコンサートが開かれているのを知った。オペラ、ランチタイムコンサート、日曜のプロムナードコンサート、ホームコンサート、教会や路上でと、有名無名の音楽家たちの演奏が暗い冬をクリスマスオーナメントのように彩る。

人前で演奏するのはかなりストレスだけれど、

「ピアニストはストリッパー、恥ずかしいけど見せたい!」

92歳日本人女性ピアニストもこう言っておられる。

かくしてセント・ニコラウスおじさまによってストリッパーになる覚悟はできた。

修行を積んで、遅咲きながらも魅力的なダンサーになってみたい。

茂木 初恵
Hatsue Mogi
東京都出身、ベルギー在住20年。ベルギー人の夫、大学生の息子とジャックラッセルテリアとアントワープ郊外に暮らす。趣味は音楽、スポーツ。「無我夢中」の文字がしたためられた書を友人から贈られるくらい幾つになっても熱く、今だからこそわかる日々の楽しみを感謝しながら享受中。