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セカイ通信 ANTWERP篇 | Vol.5

アルスエレクトロニカ
最先端のサイエンスとアートの融合
@ linz Austria

   Text : Hatsue Mogi

9月に入り、バカンス気分も落ち着くころ、ウィーン、ザルツブルク、リンツとオーストリアをめぐってきました。
ウィーン、ザルツブルクもはじめて。リッチな文化、美しい街並み、その音楽性、人々がノーブルで優しい印象、とても気に入りました。
そして最後の立ち寄りはリンツ市。
ヒットラーの出世地、収容所、工業都市という一見暗いイメージの街はこれといって魅力がなさそうですが,目的はこちらで開催されるアルスエレクトロニカ
Ars Electronica という祭典。
芸術、先端技術、文化の祭典で、メディアアートに関する世界的なイベントです。
アルスエレクトロニカは毎年のフェスティバル(展覧会、パフォーマンス公演、作品上映、シンポジウム)のほかに、メディアセンターや博物館としての機能も持っています。1987年からは*アルスエレクトロニカ賞Prix Ars Electronicaを主催し、メディアアートに革新をもたらしたものを表影しています。
大賞に当たるゴールデンニカ賞はコンピューター界のオスカーともよばれ、広く知られおり、日本からも審査員やアドバイザーが参加しています。1997年には坂本龍一氏も受賞しています。
実はこのゴールデンニカ賞に、私の高校のクラスメイトが選ばれ、その受賞式に列席する事が旅の最終目的でした。
前日からドナウ川沿いの市内のあちこちに点在する展示やパフォーマンスを持て回りました。
大掛かりな先端技術から日常的な小さな工夫、エコ的なもの、そしてアート、たくさんのプレゼンテーション、いってみればこれは未来への旅です。いくつかをご紹介します。

運転不要、自動運転のメルセデスベンツ

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実はエコな自転車やバイク

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四季を持つ草のドレス

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GOKAN Response Activating Space 五感を反映するスクリーン

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ハンディキャップの方も口だけで操作できるドローン、将来のセルフケア

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Tanps Mort/Idle times ゴールデンニカ賞受賞作品
ALEX Verhaest /BE

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中世から続く家族の肖像画の現代デジタル版です。
絵画の中で家族の一人ひとりがあまり意味のない会話を続けて行きます。
世界中のどの家庭でもきっと繰り返されてきたようなつぶやきといってもいいような会話。
そこに電話がかかってきます。父親がそれを取るのですが、なんとそれは観客が自分の携帯からかけることができるのです。
絵のなかに電話をかけることができる、なんて画期的なアイデアでしょう。
絵画の色合いや雰囲気は中世の時代からの雰囲気をあくまで残しているところが魅力です。

Chijikinkutsu ゴールデンニカ賞受賞作品
Nelo Akamatsu/JP

こちらが我が同級生ネロ赤松氏の作品 。サウンドインスタレーションです。

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説明は彼自身の言葉を借ります。
作品名「チギキンクツ」とは「地磁気」と「水琴窟」を掛け合わせた造語である。
「地磁気」とは地球が持つ磁性で地球上のどこにでも常に存在しているにもかかわらず人には感じることができない力である。しかし、大航海時代よりもだいぶ前から地磁気を利用したコンパスが役立ってきたし、現代では電子化されたデバイスとしてスマートフォンに内蔵されている。また渡り鳥、蜜蜂、ある種のバクテリアの行動に地磁気が関係しているという研究がなされている。美しいオーロラも地磁気と密接な関係がある。16世紀の科学者ウィリアム・ギルバートは自著の中で、磁気を帯びた地球は生き物のようだ、と書いているが、現代においてもその原理は完全には解明されていない。
もう一方の「水琴窟」とは、江戸時代より伝統的日本庭園の装飾の一つであり、手水鉢近くの地中の瓶に水滴が落下し、反響する音を楽しむ仕掛けである。日本人は古来より、虫の声や松風といった音をあるがままの自然として受容するという独特の感性を持ち、この繊細な感覚からこのような装置が生まれた。ちょうどこの作品を制作していた時期に京都のお気に入りの寺を訪れることがあった。その寺は山中の一番奥まったところに建っている。大きな五葉松の庭があり、その片隅に水琴窟がある。その音を聞いたときに自分の作品に似ていると感じた。後にこのことが作品のコンセプトを膨らませた。
私のこの作品のコンセプトはメディア・アートが依存している科学や技術の実証主義からきているのではないし、一部のサウンド・アートがその基礎を置いている構築的な西洋音楽的な理論から来ているのでもない。通常は科学の分野で扱われる地磁気の作用を取り入れ、日本の自然観の文脈の中で繊細な音に展開したサウンド・インスタレーションにすることである。これは幾つかの素材によって成り立っている。水、縫い針、グラス、銅線である。縫い針は表面張力の作用で水に浮いて、あらかじめ磁化しておいたその針は地磁気の作用で北を向く、そして銅線に流れる電流によって発生音が聞こえてくる。システムにはMIDIが使われてiPadの音楽シーケンサ・アプリケーションから送られるデータを特別に設計したコントローラでそれぞれのコイルに割り振って電流を流すようになっている。
私は作品に多くの要素を盛り込むのした磁気に引き寄せられてグラスにあたり音を発するのである。展示空間の四方に配置したコップからランダムにではなく要素をそぎ落としてミニマムな表現になるように心がけた。そのミニマムとはどういうことか味覚を例に取ってみよう。日本料理では「うま味」が最も重要な味覚である、しかし最近まで甘味、酸味、塩味、苦味の四つが味覚だと思われてきた。西洋の料理の多くは味に味を重ねて深みのある味を追求してきたが、日本ではできるだけ要素を少なくして「うま味」を引き出すという異なったアプローチを行ってきた。それは雑味のない純粋さの追求である。この作品で加えなかった要素は、色、LEDの光、音の増幅などである。結果として、音が際立ち鑑賞者は音に集中できるようになった、またコップの中の針が地磁気と関係があるということを気付かせることになった。
丸いコップの水面に浮かぶ針に地磁気が作用していることから、それは小さな地球のようである。微細な音は鑑賞者の感覚を研ぎ澄まし、小さい音であればあるほど感覚が鋭くなる。そうするうちに音は外部にあるのではなく内部にあると感じられるのである。

ネロ赤松氏はこの作品をヨーロッパで説明するにあたって、日本の文化を非常に意識したと言っています。
普通の世界と特別な世界の境界にある響きを表現したかったという彼、実際にこの作品の中に入ってもらうときは靴音で紛れてしまわないよう靴をぬいでもらい茶室に入る時のような特別感を出しました。

翌日のゴールデンニカ大賞のガラ授賞式はこの地出身の作曲家の名を呈したブルックナーハウスという大舞台で行われました。アカデミー賞でもあるまいし、大げさな、というアーティストたち。1000人を越す観客の前でのスピーチ、かなりのプレッシャーとなっていたようですが、皆それなりの英語でこなし、レセプションでは市長や文科相、アーティスト、アーティストを目指す人々、その他が押し合いへし合い、熱気あるディスカッションの空間が生まれていました。

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アルスエレクトロニカ、西洋と東洋文化、権威と経済と批判的精神、アートとサイエンス、そういったものが全て入り交じってリンツで年一回開催される大掛かりなお祭り、私には全て理解できるとはいい難かったものの、新しい引き出しが頭の中にセットされたような感覚を味わいました。
その引き出しはこれから思いもよらない時にふと開き、素敵なヒントをもたらしてくれるような予感がしています。

茂木 初恵
(Hatsue Mogi)
東京都出身、ベルギー在住20年。ベルギー人の夫、大学生の息子とジャックラッセルテリアとアントワープ郊外に暮らす。趣味は音楽、スポーツ。「無我夢中」の文字がしたためられた書を友人から贈られるくらい幾つになっても熱く、今だからこそわかる日々の楽しみを感謝しながら享受中。

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