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Revive Japan - Travel Note | Vol.3

「木を食べる」- つぶ食 いしもと

   Text : Keiichi Hasegawa
Photo : Keiichi Hasegawa

「Revive Japan – Travel Note」と題する本コラムでは、コレカラージュのエンジニア/エディターでもある長谷川圭一が、日本で再生・活性化されるべき事業や文化にフォーカスし、その分野で活躍されている方々を特集していきます。

前回は、筆者が元々関心を持っていた「木を食べる」ということをきっかけに出会った樽脇さん一家の茶畑、静岡県川根本町の樽脇園へと足を運び、茶畑の様子を拝見しました。第三回は、「木を食べる」ことに尽力した一人である、料理家 石本静子さんのお話をうかがいに、石本さんの営む「つぶ食 いしもと」へと足を運びました。

静岡県は水窪町にある「つぶ食 いしもと」は、地元の食材を使い、雑穀を用いた郷土料理を提供するお店です。石本さんの作る雑穀料理や、食材としての木のことについて、話を聞きました。

Q.石本さんのことは、(静岡理工科大学)志村教授の記事などを見て存じ上げていましたので、「お会いしたい」と思っていたところ、樽脇さんが予定をアレンジしてくださり、おうかがいすることができました。
このお店は、開店して、どれくらになりますか?

石本静子(以下「石」).雑穀自体は、子供の頃から食べたり料理しているものですが、お店にしたのは平成15年なので、今年で13年になります。

Q.それまでは、日常的に雑穀料理を作っていたということですね。

石.そうですね。ただ、お餅や団子にすることはありましたが、今みたいに、お惣菜にするということはありませんでした。

Q.「つぶ食」というのは、いわゆる雑穀料理のことを指しているのでしょうか?

石.普通は、単に「雑穀食」というのですが、雑穀食と言うと、どうしても戦前の貧しいイメージがあるので、「つぶをそのまま料理する」という意味で「つぶ食」と呼んでいます。元静岡県知事の石川さんが、この店へ来られたことがありまして、「つぶより」「つぶぞろい」のようなプラスのイメージの呼び名にしたらどうか?と言われたのが、直接のきっかけです。お客様の中には、「つぶ貝」の料理だと思って来られた方もいましたが…(笑)

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Q.今日出していただいた料理が、いつものメニューですか?

石.この料理が、いつもお出ししている基本の料理です。

Q.食材は、すべてこの辺りで採れたものですか?

石.食材は自分で採っています。この店は、6次産業のはしりでして、自分のところで食材を採り、自分で料理し、お客様に提供する、という形でやっています。

Q.「健康に良いから」というよりも、元々、自分の住んでいるところにあるものを活かして料理を提供する、ということですね。

石.50年ほど前に、ここへ嫁いできたのですが、その時、既にこれらの作物がありまして、元の種は明治時代から続いているものです。ただ、鳥獣害にさらされやすい穀物ですから、栽培が大変で、周りの人は次々とやめてしまいました。このままだと、せっかく続いてきたものがなくなってしまいますので、「昔からあるものを守りたい」という気持ちでやっています。
それと、この辺りは、昔から続く年中行事で雑穀料理を作りますので、その古い習慣を残したいと思ったのが、店を始めた理由でもあります。

Q.石本さん自身については、「料理家」とお呼びして問題ないでしょうか?

石.テレビなどでは「雑穀料理研究家」みたいに呼ばれてしまいましたが、研究というよりも、一つのことを地道に追求している「料理家」として、日々努力しています。

Q.元々、地元の食材を使って料理をしていたことが、このようなお店の料理として形になった、ということですね。

石. ここに至るまでに、都内などに出て勉強したこともあります。以前、健康食ブームで雑穀が流行った時、東京で雑穀料理を研究されている方のところに行き勉強しました。ただ、ちょっと手ほどきを受ければ、大概のことはわかりますし、雑穀に関しては私の方が詳しいですので、少し通ったくらいですね。私が子供の頃は、「母乳がたくさん出るようになる」ということで「ひえ」を食べる習慣があったくらいですからね。それくらい馴染みのあるものですので、私にとって雑穀は当たり前の知識なんです。その後、ある程度自信がついたところで、お店を出すこととなり、今に至ります。
又、同じ時期、県の勧めもあり、農水省の「グリーン・ツーリズム指導者研修会」に参加しました。当時、田舎では「グリーン・ツーリズムって何?」というくらいでしたが、話を聞くと、古い家屋をレストランに改装したり、農業体験を実施する、といった内容でしたので、「それなら、うちでもできるじゃない」と思い、すぐに始めることにしました。

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Q.素晴らしい行動力ですね。語弊があるかもしれませんが、田舎の方は、今あるものをなかなか変えようとしなかったり、現状のままが良いと思う傾向があると感じます。ですから、自ら外に出て、他のものから着想を得たり、実際に行動に移したという話を聞いて、石本さんのアクティブさを感じました。

石.私自身は、特別なにかを分析したりしませんが、物好きな性格なので、やってみたというだけです。そのように勉強していた頃に生まれた孫が、私がやっていることを見て、ずいぶん興味を持ってくれたらしく、大学を卒業し、この店を手伝ってくれることになりました。
私の家は、もともと山林家でして、今では林業が衰退していますが、当時は、山や木に価値がありましたので、家族を学校に行かせることができたのも、山のおかげでした。

Q.石本さんのところでは、もう林業の仕事はされていないのでしょうか?

石.人がいないので、手も足もでませんね。以前は、手伝ってくれる方がいましたが、今は林業で人を雇う余裕がありません。今後、木材の値段が上がれば良いですが、現在、山林経営はとても難しいです。昭和50年頃を境に、木の値段が一気に下がってしまいましたので。

Q.どのようなことがきっかけで、木の値段が下がったのでしょうか?

石.建築に新しい建材が使われるようになり、日本の木材を使わなくなったということですね。私の姑さんが、昭和45年に開催された大阪万博に行きまして、帰ってきた際、「これからは、山で食べていく時代は終わるから、木はどんどん売って、子供の教育のために使いなさい」と言いました。それから、その話通り、どんどん木の値段は下がりました。檜も、石(こく/0.278㎥)で、15,000円くらいしていたものが、どんどんと安くなっていきました。ここのお姑さんは、とても頭の働く人で、「そうは言っても、生きていかなくてはいかない、家にいながらにして、お金を稼げることを勉強しなさい」と言われました。

Q.それは、だいぶ先進的な考えを持っていらっしゃる方ですね。

石.そうなんです。ですから、先ほどのグリーン・ツーリズムの研修など、積極的に外へ出ることを支援してくれました。お姑さんのおかげで、このお店も開店できているというわけです。

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Q.「木を食べる」ことについて、志村教授から声がかかったのは、どのようなきっかけですか?

石.はじめは、有名な料理研究家の方々に相談したそうですが、「材木を食べるの?」という反応をされて、誰からも断られたそうです。私のところは、昔から山林家ということもありますし、抵抗はありませんでした。実は「杉の芽」が食べられるのを知っていますか?若い木の芽は、少し酸味もあって美味しいんです。ですから、「杉も檜も食べられないことはない」という発想で木を持ってきていただき、お菓子作りで材料を粉末にする要領で、料理の材料に使いました。

Q.この話が、石本さんのところに来た時は、どのように思われましたか?

石.なんということはなかったですね。天竜 T.S.ドライシステム協同組合の榊原さんがいらっしゃって、その話を持ってこられた同じ日、もう一度、お店に戻ってきたんですが、早速ドーナツを作ってたんですよ。それを見て、「もう作ってるの!?」と驚いてましたね(笑)私も「面白い」と思ったら、すぐに行動してしまうものですので。

Q.おが粉だけで食べてみましたか?僕は、ゆずっていただいたおが粉を、そのまま食べたりしているのですが…(笑)

石.そのままだと、ちょっと食べにくいと思いましたが、作る前は、どんな味がするのか試してみましたよ。そば粉くらいにすれば問題ないと思い、粉末状にしました。

Q.作っていただいたドーナツは、おが粉10パーセントということですが、木好きとしては、50パーセントでもよかったくらいでした(笑)

石.志村先生の本にも書いてありますが、先生のご希望で作った、おが粉30パーセントのパスタは、なんとも喉をうまく通らなくてダメでしたね…(笑)かりんとうやドーナツみたいに、油であげてしまうと、ちょうど良くなるのですが。

Q.ぜひ、雑穀料理だけでなく、「木を食べる」ということを普及する核となる方になっていただきたく思います。

石.孫も手伝ってくれることになりましたし、これからも続けていきたいです。

Q.ちなみに、とても古そうな水墨画や写真が気になったのですが。

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石.この水墨画は、江戸時代のものです。菩提寺の和尚さんが絵を描く方で、お礼にいただいたものと聞いています。

Q.江戸時代ですか!この建物自体は、どれくらい前に建てられたのでしょうか?

石.家自体は350年くらい前からありましたが、今の建物は115年です。建物の下が岩盤ということもありますが、地震(東日本大震災)の時は、少し傾きがあったくらいで、全く問題ありませんでした。建築関係の方が何人か来て見ていただきましたが、この家は地震が来ても問題ないと言われたんですよ。

Q.この土地で育てられた木が、それだけ丈夫であり、この家を建てられた匠の技術がすごかったということですね。「木を食べる」ことだけでなく、日本に昔からある「木の文化」の素晴らしさを一層普及できるよう、僕もお手伝いできればと思います。

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左:天竜 T.S.ドライシステム協同組合 理事 榊原 康久さん
中:つぶ食 いしもと 石本 静子さん
右:樽脇園 樽脇 靖明さん

» 志村史夫著「木を食べる」(牧野出版 2015)- Amazon

石本 静子
(Shizuko Ishimoto)
静岡県水窪町で雑穀料理店「つぶ食 いしもと」を営み、明治時代より続く雑穀料理を追求する料理家。静岡理工科大学 志村教授、地元製材所の天竜 T.S.ドライシステム協同組合と共に、天竜杉を使った「木を食べる」ことに尽力し、地域文化の復興に努める。
長谷川 圭一
(Keiichi Hasegawa)
インターネット黎明期から培ったスキルをベースに、プログラミング、サーバー、ネットワークに精通し、DTP、DTM、DTVから、翻訳、ライター、DJと、多岐にわたる分野を行き来する超雑食系男子。Qorretcolorageでは、ウェブサイトのプログラム、エディトリアル関連を担当。

http://mentalposition.com

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