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Revive Japan - Travel Note | Vol.5

「木を食べる」- 静岡理工科大学 志村 史夫 教授

   Text : Keiichi Hasegawa
Photo : Keiichi Hasegawa

「Revive Japan – Travel Note」と題する本コラムでは、コレカラージュのエンジニア/エディターでもある長谷川圭一が、日本で再生・活性化されるべき事業や文化にフォーカスし、その分野で活躍されている方々を特集していきます。

前回は、筆者が元々関心を持っていた「木を食べる」ということから出会った「スーパーウッドパウダー」の原材料、「天竜杉」を製材する、天竜T.S.ドライシステム協同組合へおうかがいし、理事である、森下幸司さん、榊原康久さんに話をお聞きしました。
第五回は、著書「木を食べる」を執筆し、木の素晴らしさだけでなく、自身が興味を持った「木を食べる」ことについて研究をされた、静岡理工科大学の志村史夫 教授の研究室へと足を運び、その著書や研究の内容について話をお聞きしました。

日本で唯一、又、世界でも数少ないであろう「木を食べる」ことについて研究・執筆された、志村史夫 教授は、筆者が最も会いたいと思う人物の一人でした。それ故、最先端のハイテク分野から生き物についてまで数多くの研究をされてきた教授の話にすっかり魅了され、話題は、木のことから日本の教育まで、興味深く話をおうかがいしました。

Q.著書「木を食べる」では、研究者としての視点から、科学的な分析も踏まえ、木を食べることや木そのものについて書かれていますが、現在でも木について研究されていることがあれば教えてください。

志村史夫 教授(以下「志」).日本テレビの「世界一受けたい授業」を始め、静岡のテレビ局はもちろん、色々な番組でとりあげてもらいました。ですから、はじめは、「木を食べる」ということは、もっと話題になると思っていました。
特に「花粉症に効く」というのは、元々イメージがありましたし、それを(樽脇園)樽脇さんにご協力いただき、実際に効果があることがわかりました。ただ、あんなに効くとは思っていなかったので、花粉症のことだけでも話題にはなると思いましたし、木の主成分はセルロースですから、ダイエット食品として相当いけると思っていたものの、思ったほど話題にはなりませんでした…(笑)
又、一緒に頑張っていた榊原さん(天竜 T.S.ドライシステム協同組合 前理事長)が亡くなってしまったこともあって、今は「木」についての活動も、少し落ち着いてしまった状態です。

私は、来年(2017年)3月に大学を定年退職しますから、その後、天竜の土地に研究所を作り、林業活性化のための活動をしたり、木造建築の良さを広めたいと、榊原さんと話していました。そんな折に逝去されてしまったので、私も気持ちが下がってしまい、一冊の本をまとめたことで「やるべきことは終えた」と思ってしまったんです。
樽脇さんは、今でもご尽力されていますが、そのような理由で、周りの気持ちも徐々に盛り下がってしまったというのが現状です。

私も研究者ですから、前例のあることをやっても仕方がないですし、これまでにあるものは国に任せればいいと思いますが、日本人は、見たことがないことや経験したことが無いことに関心を持たない傾向がありますので、「木を食べる」ことが予想していたほど話題にならなかったのは、仕方のないことなのかもしれません。

Q.「木を食べる」の本の中には、「前例のないことは馬鹿にされる」といったことが書かれています。
僕自身も、「木を食べることの普及」や「日本の林業再生」は一つの目標であり、それをビジネスとして成り立たせることもゴールではありますが、それより、前例が無くとも自分がこだわっていることを納得がいくまでやりとげることが大切だと思っています。

志.全く同感です。私は半導体分野の第一線でずっと活動してきて、1983年から10年あまりアメリカで過ごしてきましたが、渡米する前に出した論文は、日本で注目されることはありませんでした。当時の日本は、独創性があればあるほど、受け入れられなかったのです。
「木を食べる」の本にしても、期待していたほど話題にはなりませんでしたが、「木が好きである」ということから始まり、「食べる」ことまでを一冊にまとめることができたので、私の中で「やるべきことは終えた」と思っています。
メディアにも出て、本も書きましたから、あとは、いしもとさんのように料理にしたり、樽脇さんがやっているようにお茶として提供するなど、それぞれが認知されれば良いと思っています。

Q.「木を食べる」を読む前は、「食べる」ことが中心に書かれていると思い本を手にしましたが、実際に読んでみると、研究者として科学的な観点から分析・検証されているのが、良い意味で意表を突かれました。
面白かったのは、動物は他の生き物から栄養をもらわないと生きていけない「従属栄養生物」という考え方と、植物は独立して栄養を採り生きている「独立栄養生物」であるという一節です。それが最終的に、「植物は動物のように動く必要が無いから進化しなかったのだ」という、進化(シンカ)で締めくくられているのは、非常に感心した点でした。又、生命としての木に対する畏敬の念についても、とても共感しやすい内容が書かれていて、単なる科学的研究に収まらず、素晴らしい内容だと感じました。

志.私は、最先端の技術の分野で活動してきましたから、尚更、昔の職人や技術がすごいと思うと同時に、木はもちろん、生き物というのは「偉い」と思っているんです。「古代日本の超技術」など、他の著書でも書いているように、私は木自体を尊敬していますし、それを使いこなしてきた日本の職人達をこよなく尊敬しています。ハイテク分野にいたからこそ、クレーンもパソコンもない時代に素晴らしい木造建築を作ってきたというのは、本当に「偉い」と感じます。五重塔も、現在は東寺の55mが最大ですが、昔は100m級の塔が何本もあったわけで、それらの材料になった木自体も、樹齢2000年というものもありますから、本当にすごいと思います。
友人に木の専門家がいるのですが、「なんで木は何千年も立っていられるんだ」と言っても、彼にとっては当たり前のことですから、不思議に思わないわけです。縄文杉なんて樹齢7000年というものもあって、まったくすごいものです。もちろん科学的理由はありますが、私からすれば、五重塔ですら、長い間、しっかりと立っていられるのが不思議に思います。
私がハイテク分野で研究していたことは、現在のスマートフォンなどの技術に役立てられていますが、そのスピードは予想以上に速く、人間の能力も「すごい」とは思いますが、それ以上に、コンピューターも無い時代に素晴らしい技術を持っていた職人達は「偉い」と思います。更には、身近な場所で長い時間立ち続けている木は、もっと「偉い」と感じるようになりました。そんな中、天竜の製材所で見た、おが屑やかんな屑を見て「綺麗だな」と思い、同時に「これは食べられないものか」と思ったわけです。

Q.木や昆虫などの生き物は、ハイテクとは全く相反するものですが、この本の序章に、ベル研究所を訪れた際に感化されたという「Leave the beaten track occasionally and dive into the woods.(たまには踏み固められた道から離れ、森の中へ入り込んでみよ。)」という言葉があり、その意味だけでなく、奇しくも「Woods(森)」と書かれていて、実に面白いつながりだと思いました。

志.その一節は、いつか半導体の本を書く時、見開きに付けたいと思っていた言葉でして、その後、Academic Press というアメリカの学術雑誌の出版社から、半導体に関する本の執筆依頼があり、38歳の時、その言葉を添えて出版しました。しかし、まさかこの言葉に気づいていただけるとは、思っていませんでしたが(笑)

Q.この言葉が意味している通り、ハイテク分野から道をそれて、木や生命のような、他の分野に足を踏み入れるというのは、研究者らしいことだなと思いました。

志.私も、早くから国家プロジェクトに参画したり、日本電気の研究所でも「いずれ、おまえが所長だ」と言われていたくらいで、このまま「beaten track(踏み固められた道)」を突き進めば、なんの不安もなく出世していったと思います。しかし、このベルの言葉に感化され、1983年にアメリカに渡りました。当初は好待遇で迎えられましたが、ともすれば、靴磨きか皿洗いになっていたかもしれない状況でした。それでも、「やるしかない」と思って渡米し、幸いにも、うまく道を切り開くことができました。ですから、私にとって、この言葉は、本当に大きかったと言えます。

Q.ハイテク対自然ということで言えば、月齢伐採も、また、生命の神秘と言いますか、不思議な魅力だと思います。

志.新月伐採について関心を持つようになったのは、4年ほど前、榊原さんとお会いしたことがきっかけです。先ほどお話しした木の専門家の友人に新月伐採のことを話すと、「そんなバカな話はない」と一蹴され、私自身も、新月と満月の間のたった15日で木が変わるはずなどないと思っていました。ですから、話を持ちかけられた時はお断りましたが、再度お願いをされ、渋々会うことになりました。しかし、実際に榊原さんにお会いした時、その熱意に「この人は違う」と感じました。
月齢伐採の話は「科学的に考えるのが難しい」と伝えましたが、その後、色々なデータを見せていただき、頭の中では「信じがたい」と思いながらも、本当だと思わざるをえなくなり、本気で取り組むことになりました。
調べると、そのようなことは江戸時代から言われていましたので、時間生物学(※)というものを持ってくれば説明できるんじゃないかと思い、大学の院生に、新月に関して実験してもらいました。
これまでの常識からは考えられなくとも、職人の知っていることや、現実にある技術は、常識に当てはまらないことがありますから、そこから外れて、もう一度自分でやってみようというのが、私の姿勢です。
そして、月齢伐採について研究してみると、実際に新月伐採と満月伐採の差が再現されました。そうなると、信じるしかありませんので、科学的理由を考えるには、生き物をもってくる必要があると考えました。
初めは引力で説明をしようと考えましたが、新月も満月も引力の強さは同じですので、これでは説明がつきません。又、樽脇さんから聞いていた話ですが、満月と新月では虫(害虫)の量も違うとのことで、当然、虫の挙動を考えると、やはり月の影響はありえることで、人間には理解できない、なにか理由があるのです。

※時間生物学:生物に内在する生物時計/体内時計を研究する学問分野

Q.「食べる」という点では、その後、木を口にしたりはしていますか?僕は、樽脇さんにおゆずりいただいた「スーパーウッドパウダー」を、そのまま食べたりしているのですが(笑)又、花粉症がひどかったのですが、おがっティーやスーパーウッドパウダーを口にするようになってから、花粉に対する反応も劇的に減りました。

志.そのまま食べているのは、すごいですね(笑)花粉症は、モニターテストの結果、71%が「良くなった」、8%が「劇的に良くなった」という回答がありましたから、効果は確実なはずです。

Q.少し話はそれますが、先生の著書に『勉強ギライな子どもに「勉強の面白さ」を伝える方法』という本があります。「木を食べる」に書かれていた内容で、天然乾燥と人工乾燥ならば、天然の方が木材として質が高いように、教育も「画一的義務教育」より、自然に学ばせた方がいいということが書かれていましたが、教育者として、日本の教育について、どのように考えていますか?

志.今の教育というのは、とにかく「均一教育」です。その方が、教える側は楽ですからね。
法隆寺の西岡常一棟梁も言っているように、昔は、森に生えている木を見て、どの木が良いか判断していましたが、今の大工さんたちは「そんなことは無理だ」と言います。コスト的に仕方がない面もありますが、結局は、木の良し悪しは別に、均一に大量生産された木材を使います。同様に、日本の教育も、勉強のできるできないや、当人の興味は関係なく、画一的に教育されているのが現状です。

私は昔から言っていますが、アメリカのように、各生徒の能力、興味を区別して教育を受けさせてあげるべきだと思っています。しかし、日本だと、それは「差別」だと言われます。日本では、クラスに50人いたら、その真ん中あたりのレベルに合わせて授業を進めますが、勉強のできる生徒、できない生徒にとっては、それがある意味「差別」なわけです。実際、能力別に教える方が生徒にとって良いのですが、勉強ができない生徒を教えられる教師が少ないため、「真ん中に合わせておくのが一番楽」ということになってしまうのです。
私の言っているのは「差別」ではなく「区別」なのですが、多くの日本人は「差別」と「区別」の区別がつかないのです。人間、できる人とできない人がいるのは当たり前の話ですが、日本人はそれを無しにして、結果の平等主義を唱えているのです。

日本人は、福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という一節を好む人が多いですが、「その後をちゃんと読みなさい」と思いますね(笑)そのあとには「周りを見回してみると、出来る奴と出来ない奴がいるのは、どうしてか」ということが書かれているのですから。
同じように、木は、まさに一本一本違っているのに、それを見分けられる棟梁もいなくなり、昔のように、立派な木造建築ができなくなってしまいました。

ところで、天然乾燥の木のすごさは、木の質以外に、「カビの抑制効果」が実験結果でわかっています。この点、院生に実験をさせているので、実験結果をお見せします。

鈴木達也(以下「鈴」).これは、約一年前に実験を始めたものですが、パンだけ入れたもの、檜を入れたもの、杉を入れたものです。
パンだけのものと檜と一緒にしたものにはカビが生えていますが、杉と一緒にしたものにはカビが生えていません。
瓶の蓋を開けてみると、杉と一緒に入っていたパンは乾燥していましたので、杉自体の吸湿作用と、精油成分が影響しているのかと思われました。
カンナ片での実験では、檜の場合、カンナ片が小さいとカビの発生が大きくなりましたが、杉の場合、どの大きさでもカビの抑制効果は同じでした。

志.榊原さんも、「檜より杉の方がすごい」と以前から話していました。一般的には、檜の方が香りが強く、檜風呂は有名でも杉風呂はあまり知られていないように、「檜の方がすごいもの」という意識がありましたが、実際は「杉の方がすぐれている」という実験結果でした。

鈴.精油成分は、木の重量に対して、杉からは0.6%、檜からは0.3%の精油が抽出できます。この精油を使って、カビの発生実験をしました。又、精油を抽出する際に得られる蒸留水と、乾燥による比較を行うための乾燥剤を併せて比較したところ、精油のみ、蒸留水のみ、乾燥剤のみ、は、カビが発生しました。精油だけのものは、ある程度の期間カビが抑制されましたが、「杉の板のみ」は長期間カビが抑制された、という結果になりました。
最終的には「木材が湿度を調整していることと併せて、水溶性の揮発成分がカビを抑制している」という結論となっています。

Q.こうした実験は、過去、他に事例はないのでしょうか?これを実証できれば、一つの論文として発表できると思ったのですが。

鈴.ここで研究している以外には知りません。確かに、実証できれば論文にできるとは思いますが、ある意味、オカルト的に思われている節もありまして…(笑)ただ、ここの研究室では、このように誰もやっていないことに挑戦しています。

志.新月伐採、満月伐採の杉の比較では、満月の方にカビが発生する、という結果になっています。科学的検証結果は、数値がどれもわずかな誤差でしか明確にできないのですが、昔、「磁場処理水」の研究をした時にも、効果はでているものの、比較実験で僅かな差しか出ないため、論文にもできず、科学的根拠を証明することができませんでした。しかし、人間以外の生き物はもっと敏感ですから、その差を感知できているはずです。人間が持っている装置では、差が出せないということです。地震予知も同じ理由です。動物は地震発生前に暴れたりしますが、人間には察知できません。地震が起こる際、圧電効果と言って、電磁波が発生しますが、人間がキャッチできなくとも、動物は、それを感じていると考えられています。新月伐採に起こることも、それと同様の現象だと思います。

Q.まだまだ人間にはわからない、自然の不思議な力があるということですね。新月伐採の神秘、そして、杉の持つパワーから、天然乾燥による天竜杉の素晴らしさまで、「木を食べる」ということをきっかけに、沢山のことを学ぶことができました。
現在は、これらの事柄に注目している人は少ないですが、僕も、グラハム・ベルの言葉に倣い、未開の森の中に飛び込み、木の素晴らしさを伝え、さらには、林業再生や地域復興といったことに尽力します。

 
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志村 史夫
(Fumio Shimura)
静岡理工科大学教授
ノースカロライナ州立大学併任教授
応用物理学会フェロー
日本文藝協会会員
1948年、東京・駒込生まれ。名古屋工業大学大学院修士課程修了(無機材料工学)、名古屋大学工学博士(応用物理)、日本電気中央研究所、モンサント・セントルイス研究所、ノースカロライナ州立大学を経て、現職。
日本とアメリカで長らく半導体結晶の研究に従事したが、現在は、古代文明、自然哲学、基礎物理学、生物機能などに興味を拡げている。
半導体、物理学関係の専門書・参考書のほかに、『古代日本の超技術』『アインシュタイン丸かじり』『漱石と寅彦』『人間と科学・技術』『文系?理系?-人生を豊かにするヒント』『寅さんに学ぶ日本人の「生き方」』『スマホ中毒症』『一流の研究者に求められる資質』『木を食べる』など、一般向けの著書多数。
長谷川 圭一
(Keiichi Hasegawa)
インターネット黎明期から培ったスキルをベースに、プログラミング、サーバー、ネットワークに精通し、DTP、DTM、DTVから、翻訳、ライター、DJと、多岐にわたる分野を行き来する超雑食系男子。Qorretcolorageでは、ウェブサイトのプログラム、エディトリアル関連を担当。

http://mentalposition.com

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