March 7th 2014
かっこ良くてチャーミングな大人たちの現在、過去、未来…、その生き様や考え方を垣間みることができ、Mirroirウェブの読者の皆様にもっと楽しい「今」、さらにポジティブな「明日」を提供する対談企画です。各月のゲストが翌月にはお友達を招き、ホストになるリレー形式で展開していきます。
今回は、前回のゲスト、株式会社リヴァンプ 代表取締役社長兼CEO 澤田 貴司さんに、株式会社シーアイエー 代表取締役会長 シー・ユー・チェンさんをお招きいただきました。
チェンさんは、次世代型のリテール、フード&ベバレッジ、コミュニティ施設などの開発やコンサルティングのプロフェッショナル。澤田さんと同様、ヒトと仕事を愛し/愛される生き方についてお話しいただきました。
二人の出会い
澤田氏(以下、敬称略):チェンさんとは、15~16年のお付き合いになるけれど(2014年現在)、改めて、チェンさんのストーリーを聞かせて頂きたいな。
チェン氏(以下、敬称略):僕は1947年に北京で生まれました。ちょうど第2次世界大戦中で、共産党の政権下にあった中国を脱出し、日本へ移住。その後アメリカで、日本法人のアパレル系の会社の副社長を経て、ロサンゼルスでギャラリー兼レストラン兼ナイトクラブの経営をスタートさせました。
澤田:伝説のチャイナ・クラブ!でも、なぜロサンゼルス?
チェン:当時は雑誌「POPEYE」や「BRUTUS」でニューヨークやLAの「今」を伝えるような海外企画にも携わっていたんですが、取材を重ねるうちに西海岸がすごく好きになった。でもね、ニューヨークには最先端のカルチャーがあるのに、LAにはそういう刺激が見当たらない。アンディ・ウォーホルともよく話したものですが、若者が集まり、なにかを発信する場を作りたかった。芸術、ファッション、音楽・・・あらゆるカルチャーがそこにあるような、そんなエキサイティングな場所をね。
澤田:なるほど。“音楽と人を集めてムーヴメントを生み出す”、まるでチェンさん自身を体現したかのようなスポットをつくったということだね。
チェン:当時は「これだ!」と強く感じて、すぐに動いて、そしてチャイナ・クラブが誕生したわけです。無我夢中になって取り組んだ結果、その甲斐あっていろんな人が集まって、今考えても面白い場所だったと思いますね。その後、1984年に株式会社CIAを立ち上げて、現在はコンサルティング業をはじめ、主に建築、小売、最近は都市開発などをお手伝いしています。開発することが好きなんですね。創造することで生まれる変化のエネルギーに病みつき、というのかな(笑)。
澤田:CIAも今年で30周年を迎えられましたね。すごいなぁ。30年を振り返ってみて、思うことは?
チェン:かつて携わった仕事はもちろんのことだけれど、巣立って行った仲間(チーム、スタッフ)のことがやっぱり心に残っています。人だね、やっぱり。
特に印象的なのは、澤田さんの紹介でうちに入った齊藤・小枝姉妹。姉の齊藤美紀さんはインテリアデザイナーで、妹の絵麻さんはカルフォルニア料理料理研究家。どちらも3児の母親でありながら、リスペクトできる高品質な仕事をバリバリやっている。僕に日本の女性ってすごい、と思わせてくれたスーパーシスターズですよ(笑)。
澤田:美紀さんと僕は当時、ユニクロで一緒だったんだけれど、彼女の持ち味をより生かせるのはチェンさんのところだ!と思って繋いだのを覚えています。
チェン:今ではうちのプロジェクトマネージメントでは欠かせない存在です。妹の絵麻さんはCulinary Institute of America Greystoneを卒業していて、フードビジネスをしっかり把握している完璧なプロ。次の対談は彼女たちにオファーするのもいいかもしれないね。
女性目線のプロジェクト
澤田: CIAそのものにも、女性スタッフが多いのかな?
チェン:現代の女性が好むライフスタイルをいかに提案できるかが僕らの仕事の軸なので、女性の視点は欠かせない。例えば、カフェやデリの仕事の依頼があったとして、人気店のメニュー構成、あらゆるカフェやデリの価格帯や使用している素材についての細かい知識がないとクライアントに対応できませんからね。女性はそういった情報収集が実にスムースだし、感覚としてそういう意味のいい嗅覚を持ち合わせているように思う。
社会におけるリアルな金銭感覚と、エモーショナルな消費ポイントは女性じゃないと分からない。だから彼女たちの力を借りつつ、僕自身もトレッドミルで走りながら『FIGARO』などの女性誌を熟読し、日々女性視点を養っています(笑)
澤田:なるほど、そうだよね。女性の活躍する場がどんどん広がっているというのは僕も日々感じているね。ところで、チェンさんは世界中の人と接点があるけれど、今までに影響を受けたのはどんな人たち?
チェン:実は僕は40代でソウルサーチングの旅をしたのだけれど、その時に出会ったダライ・ラマ。仏教では慈悲の心を持って、全てに感謝することが生の幸せだと教えられました。
ゴスペルシンガーの小坂忠さんも尊敬する人の一人。40年以上にわたって歌い続けている芯の太さにはいつも感動するな。カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授で、リチャード・ベンダース夫妻もそう。お年を召しながらも輝き続ける知的なライフスタイルが素敵。結局はシンプルな生き方を貫いている方々に、刺激を頂いていますね。
澤田:素敵な人は、素敵な人を知っているんだなぁ。僕は、ユニクロのリブランディング時にどうすれば格好良いブランドになるのか、真っ先にチェンさんに相談したものね。
チェン:あの時はJ Crew.のマーチャンダイザー陣にも力を借りて、アイテムを戦略的にスタイリングしましたよね。体育館に次シーズンのアイテム1500点を並べて、既存のラインを別ブランドのように再構築した。重ねや袖のアレンジ、カラーリング、どれも新鮮で格好良かった。
澤田:あれにはびっくりした。編集のチカラ次第でこんなにも生まれ変わるのかと。
チェン:エディティングは、アイデアとセンスの質で激変します。僕らのミッションは、腕のいい専門家によるチームでプロジェクトを編集し、クライアントの願いを叶えること。消費者はいつだって次のライフスタイルの提案を求めているでしょう。ユニクロの時は“ものすごくいい”よりも“ちょっといい”という絶妙なラインが感覚的にわかるプロチームを構成できたことで、結果が吉と出た。
プロジェクトに合った最高のチームができた時、「いける、やれる」っていう期待以上のエネルギーが生まれる。だからプロジェクトが成功しやすい。
「ムダなく生きると、人生はつまらない」
澤田:いつも新しいプロジェクトで世界中を飛び回っているチェンさんだけれど、“今”注目しているスポットはありますか?
チェン:ホットな場所と言えば自宅ですね!好きなジャズ・ミュージシャンの時代性を再現すべく、機材や楽器にこだわって夜な夜な研究しています。もともと自分もミュージシャンだから、今でも凝り性。すごく細かな音にこだわったり、マニア気質。妻には「うちの人、また部屋に閉じこもって何かしてるわ…」って呆れられていますよ (笑) 。
澤田:いいですね、そのギャップ。僕も家族と過ごす時間が大好きだから良く分かる(笑)。
チェン:仕事柄カッコイイ場所、話題の場所、スタイリッシュな事も幾らでも言えるけれど、仕事でそうした場所に出向いたりする機会が多い分、オフは趣味に没頭したい。僕という人間は、実はものすごく両極端な面を持ち合わせているんですね。趣味や道楽って実益を兼ねないから一見ムダなことのように見えるけれど、実は、こういう「一見ムダなこと」が人生で結構大切なことであったりするとこの頃特に感じるようになりました。
澤田:それ分かるな。失敗を重ねて成功に近づいていくことも多々あるし、何より自分の引き出しを増やすというのかな。今日はお話を伺えて、チェンさんがチェンさんたる所以が改めて分かった気がしました。意外とマニア気質だったっていうところも新鮮だった(笑)。最後にMirroirウェブの読者の皆さんに何かメッセージをお願いします。
チェン:今の若い世代は特に保守的な人が多いでしょう。みんなもっと遊び、意味ないことに時間を費やしてほしい。ムダな経験は歳を経てワインのように熟成されます。きっといつか何かの役に立つこともあるかもしれないし、どこかのタイミングで何かと繋がったりすることもある。何より、年月を重ねて、やがて味わい深く、愛おしく感じられる人生って、とってもいいじゃないですか。人生は楽しむもの。遊びのある豊かな生活を送っていただきたいものです。