Qorretcolorage - コレカラージュ

彩り重ねるコレカラの人生
大人のハッピーエイジングメディア

OTONA LOUNGE

齊藤 美紀(utide代表/インテリアデザイナー)小枝 絵麻(Food & Wine Specialist)イェンス・イエンセン(一般社団法人 日本コロニヘーヴ、エディター、コンサルタント)

Text : Ayumu Komatsu
Photo : Kumiko Suzuki

May 7th 2014

かっこ良くてチャーミングな大人たちの現在、過去、未来…、その生き様や考え方を垣間みることができ、Mirroirウェブの読者の皆様にもっと楽しい「今」、さらにポジティブな「明日」を提供する対談企画です。各月のゲストが翌月にはお友達を招き、ホストになるリレー形式で展開していきます。

今回は、前回のゲスト、齊藤美紀さん・小枝絵麻さん姉妹の共通の友人でもあるイェンス・イェンセンさんをお招きしてお届けします。

イェンス・イェンセンさんは、デンマーク出身。株式会社シーアイエーや在日デンマーク大使館での勤務を経て、持ち前のDIY精神で食や建築を中心とした様々なライフスタイルを提案する活動を行いながら、多くの著書も執筆。そんな“イェンス流ライフスタイル”をいろいろと探ります!

みんなの出会い

美紀さん(以下、敬称略):イェンスとはもともとシーアイエー時代の同僚で、私たち夫妻がイェンスのお家に呼ばれて遊びに行ったのが仲良くなったきっかけだったと記憶しています。そのときはお食事もイェンスがすべて作ってくれて、すごく美味しくって!私たちは基本的な価値観が似ているので、それから家族ぐるみの付き合いが長くずっと続いています。

イェンスさん(以下、敬称略):プライベートな付き合いのほうが印象的で、同じ会社にいたけれど、あまり仕事では重なっていないかもしれないね。

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美紀:絵麻とはどうやって知り合ったんだっけ?

イェンス:絵麻さんとは元々は美紀さんの紹介で、アメリカサクラ協会の何かしらのイベントで一緒になったことがきっかけ。その時はほんの少し手伝ったぐらいだったんだけれど、「食」という共通点があり、意気投合。

絵麻さん(以下、敬称略):イェンスは私とは「食」繋がりで、美紀とは「建築」という部分で共通していて、なんだか面白い。

イェンス:そうだね。美紀さんとは仕事の内容が重なっているけれど、テイストが全然違う。美紀さんはセレブ系が得意で、僕はDIYの手作り感たっぷりのラフな感じでね(笑)。

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『将軍』で観たニッポン

美紀:そもそもどうして日本に来たの?

イェンス:昔、デンマークで『将軍』っていうドラマを見て、面白い国があるんだなと思ったから(笑)。それからロンドン大学で本格的に日本語を勉強し始めて、2年生の時に1年間日本に留学したのがきっかけ。その後一度はロンドンに戻って、2002年に大学を卒業してそのまま日本に来ちゃった!

絵麻:ドラマがきっかけってすごいね!笑
日本で最初は何をしていたの?

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イェンス:最初はブルームバーグに1年間勤めていました。その後、一旦はデンマークの建築の学校に戻ったんだけれど、妻のビザが取れなかったから、日本に戻り建築の事務所に入って2年間仕事をして、そこからチェンさんの率いるシーアイエーに入社した。

絵麻:なるほど。でも、ブルームバーグからどうして食と建築に?

イェンス:建築はもともとすごく好きで、いつか仕事にしたかったから。料理は子供のころから、母の手伝いで作ったりしていたからとても身近だった。要するに、どちらも子供のころから好きだったから!(笑)
基本は、自分でできることはすべて自分でやりたいタイプなので、家も自分で作るし、料理も自分で作る。いろんなものを自分でやる(作る)という点ではどれも同じ。

美紀:都内の自宅もすばらしいよね!ドアを開けるまではごく普通の日本のマンションなのだけれど、開けるとまるで北欧!全部自分でリノベーションしたんだよね?

イェンス:そう、外と中で全然違う。結構違和感あるよね…(笑)

美紀:最近、鎌倉にも家を建てたそうで?

イェンス:日本は家の値段がほぼタダでしょ。土地代だけ払って、家はおまけでついてくる…。だから僕にとっては最高!笑
鎌倉では家も、庭も、小屋も、畑も作っている。すごく楽しい!

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肩書は…「特になし」

絵麻:いいな。素敵そう!ところで、イェンスのメインの肩書は何?

イェンス:ちょっと前までは大使館に勤めていて、日本にデンマークのPRをする広報担当をしていたけれど、今はいろんな事をやっている。だからメインの肩書は特になし。何でもできちゃうからね(笑)。
実際に今でも料理を雑誌等で紹介しているし、最近は自国のオープンサンドイッチを各地に広めようと、鹿児島や都内の百貨店でイベントをやっています。デンマーク語だと「スモーブロー」と言って、黒いパンの上に様々な具をのせて食べるポピュラーな一品。
それから、庭のある暮らしの提案として2007年から小田原の江之浦地域で始めたんだ。デンマーク語で「コロニへーヴ」と言って、小屋+お庭がいくつか集まっているコミュニティガーデン。美紀さんも一回だけ遊びに来たね。よくその日の写真を、講演の時に使わせて頂いています。(笑)

美紀:子供が裸で走り回っている写真でしょ(笑)
すごく良いところだよね!傾斜地で、海があって、山があって、牛もたくさんいて。子供たちがとても喜んでいたから、また連れて行きたい。

イェンス:ぜひ!
つまり、なんていうか、現在はライフスタイルを提供すること全般的なことに携わっている感じかな。だから僕には肩書きはないし、持たない。

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日本のいいものを世界へ

美紀:そういう職業も素敵だね。今一番やりたいこと、そしてこの先、次にやりたいことは何?ぜひ知りたい。

イエンス:今一番やりたいことは、日本のいいものを海外に紹介すること。大使館を辞めてから、もうずっとそれに取り組んでいる。具体的には、職人がつくる「技」を感じられるもの、そして日本の美食。日本には本当にいい食品がたくさんあるのに、全く海外に紹介されていないし、物流的にも動いていない。だからそれをサポートするお手伝いがしたいなと思っています。その一環として、イギリスのWallpaperという雑誌に記事を書いたりもしているんだ。

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絵麻:お!“ライター”という職種も手掛けているんですね(笑)
では、今、注目している食材はどんなもの?

イェンス:いっぱいあるけれど、例えば鹿児島の紅茶。無農薬のこんなに美味しい紅茶が日本でも作られているのか!とびっくりしたね。ワインなら山梨のグレイスワイン、ビールは茨城のネストビールとかね。どちらもとても美味しい!あえて普段の外国の食事に合うものをもっともっと紹介できたらいいのに、実はそこはあまり世界には紹介されていないのが残念。だからそれを先行して、僕が発信していくのもいいかなと思ったり。

絵麻:本当に日本にもいいものはたくさんあって、私も同じようなことを感じることがあるかもしれない。そういえば、ジャムも作っていたよね?今はどこで販売しているの?

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イェンス:ジャム自体は僕のレシピで江之浦の近くのジャム屋さんに作ってもらっています。それを瓶詰めして、僕がパッケージデザインをはじめとした総合ブランディングをしているのだけれど、代官山のヒルサイトパントリーや僕がプロデュースしている東京駅の中のカフェ「マダム・ブロ」、用賀倶楽部で売っています。

美紀:そうだ!カフェをオープンしたのだったね!私、まだ行ってなかった…(笑)

イェンス:まだ行ってないの?ひどいねー(笑)

絵麻:イェンスの何がすごいって、時間の使い方がうまい!そして自分のライフスタイルを常にキープしているところだよね。

イェンス:そうかもね。働くのは週4日と決めていて、金曜日からオフ。週末は鎌倉で家作り。自分と家族の時間を大切にしているよ。

絵麻:それってご両親もそうだったの?

イェンス:そう。我が家は両親共に教師で、夕方早くから家に居た。毎晩6時に家族全員で食卓を囲んで食べることが当たり前だったし、夏休みはキャンピングカーに乗って、各地を家族で旅行していた。やっぱり家族と一緒に過ごす時間が多かったので、今のライフスタイルにも強い影響はあるんじゃないかな。実際に子供時代は楽しかったし、ハッピーな思い出が多いから、自分でも自然とそんな風にしたいなと思うようになった気がします。いくら忙しくても、週の半分は家で食べるようにしていて、料理は僕も奥さんもどちらともが作る。定番は、僕が朝ご飯、お昼はみんなで作って、夜は妻が作るパターンが多いかな。

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イェンス式の子育て

美紀:聞けば聞くほど、イェンスは理想的なお父さんだね。お子さんは2人だったよね?

イェンス:6歳と3歳。どちらも男の子。もう怪獣だよね、元気でうるさくて、大変。(笑)

美紀:イェンス式の子育てのルールってあるの?

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イェンス:あんまりないけど、一緒に何かをすることかな。そういう時間を持つよう心がけているかもしれない。よく木工とかを一緒にやったり。子供たちも家作りを手伝ってくれるし、彼らも自分たちで手をかけた家だから、すごく愛着を持っています。
ルールではないけれど、子供たちには木工やDIYだけではなく、そのうち自分のやりたいこと見つけてほしいとは思っているね。躾みたいなことで言えば、人を傷つけないような行動であれば何をしてもいいかな。あとはデンマーク語。せっかくだから覚えられるときに覚えてほしいし、デンマークにいる僕の家族と会話できるようにはなってもらいたい。

美紀:へー、えらいね!小さくても自分で造った家なら、大切にしようと思うものね。
子供たちの生活は生まれてからほとんど日本でしょう?デンマーク語はどうやって教えているの?

イェンス:教えるというより、自然に話しかけているって言った方が正しいかな。僕が家でデンマーク語を話していると、自然に覚えちゃう。よくデンマークの絵本を読んであげたり、インターネットでデンマークの子供番組を見せたり。我が家にはテレビがないから、テレビ番組は僕たちが選んで見せることができるのもいいのかしれない。

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いい「ケンカ」がいい仕事を創る

絵麻:イェンス自身の人生の転機は?そんな出会いや出来事を聞いてみたい!

イェンス:人生を変えた出会いはやっぱり妻のマリコ。日本留学中に通っていた学校で日本語を教えていたのが彼女だったんだ。出会った当初は友達だったけれど、ちょうど同じタイミングでロンドン行くことになって、それからお付き合いするようになって・・・。彼女と出会っていなかったら、今、こうしてここに居なかったかもしれない。
次に、仕事の出会いで言えば、シー・ユー・チェンさんだと思う!新聞を読んでチェンさんの会社を知って、自分がやりたいのはこれだ!と思って、チェンさんの会社に会いに行ったのがきっかけ。そしたらね、箱根の別荘に呼ばれて、なぜかそこで僕が料理を作り、皆が美味しいと言えば雇ってあげるって(笑)

絵麻:結果的に喜んでもらえたんだね(笑)。

イェンス:そう、美味しいって言ってもらえた!
僕はすごく張り切って燻製機まで持ち込んで色々と作ったのを今でも時々思い出す。
雇ってもらえたから、本当によかったよ(笑)

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美紀:シーアイエーでの仕事はPM(プロジェクトマネージャー)で、私と同じ。ポジションが一緒だったから、同じプロジェクトになることはほとんどなかったね。

イェンス:プロジェクト管理が主な業務。上島珈琲店の多店舗展開のマニュアルをつくったり、大崎にあるオフィスビルのブランディングをしたり、大手百貨店と一緒に北京の大規模商業施設にどのような店舗をどういう風に入るのかなど…シーアイエーにいた3年の間に、様々な経験をさせてもらいました。チェンさんとはよくケンカもしたな。(笑)

美紀:チェンさんはみんなとケンカするんだよね。私もよくケンカしたな。(笑)

イェンス:そう。チェンさんとケンカできない奴はダメ…ケンカできた方がいい。(笑)
意見が違うときは僕も折れないし、チェンさんもなかなか折れない…でも逆にチェンさんは、自分のポリシーとか意見をハッキリ言える人の方が好きだし、必要としているのだと思う。仕事っていうのは、いろいろ議論した上で成果が見えてくることが多いと思うからチェンさんのやり方が僕は心地よかった。いろんな人と議論して一番いい道を探す…だからいっぱいケンカ(=ディスカッション)する。

美紀:そうね。愛のあるケンカ(=ディスカッション)は得るものも沢山あったわね。

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日本の職人は宝

絵麻:イェンスから見て、良くも悪くも日本がデンマークと違うなと思うところはどんなこと?

イェンス:一番びっくりしたのは自然との関わり方がすごく薄いところ。環境のこともあまり意識しないで暮らしているように見えるし、景観も全く気にしていないように見える。だって、例えば電信柱。電線が垂れていたり、景色が汚いでしょう。それを日本人は、なぜ気にしないのか不思議で仕方がない。
デンマークでは都市計画のポリシーがはっきりしているので、電線は全部地中に埋まっているし、ビルは同じ色だったり同じファサードだったり、統一しているからすごく目に優しい。だからとても落ち着く。そもそも日本にはすごくいい部分がいっぱいあるのに、それを忘れかけているような気がしてならない。勿体ない!

美紀:景観については全くそうだよね。私たちも海外に住んでいたからそう感じることが多い。でもね、素晴らしいなって感じるところもいっぱいあるわけでしょう。その日本のいいところや伸ばしていきたいところはどんなところだと考えているの?

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イェンス:古くからの日本庭園は素晴らしい。美しいし、きちんと残して行くべきだと思うよね。統一感のある街という意味では白川郷もすごく素敵だし、鹿児島はみんなフレンドリーで食も豊か。瀬戸内海は最高だよ!豊島(てしま)は絶対行くべき!今、日本で一番美しいと思っているほど(笑)。同じ瀬戸内海の犬島は、昔の精錬所址を建築家が直して美術館にしていて面白いね。気候もいいし、古い日本の匂いが残っていて、家もかわいらしくきれいでとっても良い印象をもっているね。
僕は実は地方の方が面白いと思っているから、地方のよいものをちゃんと残し、伝えていきたいと考えているんだ。

もうひとつ、日本の手仕事や職人技にも注目していて、例えば鹿児島では陶芸の絵付けや竹細工、鉄でつくっているフライパンなどを見て感銘を受けました。どの職人さんもすごくかっこよかったしね!デンマークは昔から家具が有名だけれど、今は職人がほとんどいない。昔はデザイナー自身がそのまま職人だったけれど、今のデザイナーはデザインのみで作れない人が多い。デザイナー自身がつくることができないと僕は本当にいいモノはできないと思うんだよね。日本にはまだ本物の職人が残っているから、それを絶対に大切にしないといけないと思う。

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もっと誇りを

絵麻:最後にMirroirの読者の皆さんに何かメッセージをお願いします。

イェンス:日本のいいモノ・いいコトをもう一回自分たちで再発見して、誇りを持ってもらいたい。日本は海外からの影響がとても大きいと思う。海外で流行ったから日本でも流行る…とかね。そうではなくて、日本のいいモノ・いいコトをどんどん自分たちで気づいて発信できたら素敵だと思う。日本人は謙虚だから、おそらくあまり自信がなかったりするのかもしれないけれど、もっと自国のモノ、コト、場所、人・・・に自信を持って認め、広めてほしい。

美紀:そうね。日本人は自分たちで、「これで良い」「これが良い」と選べる人が少ないとは感じる。なんか人目を気にしてしまったりね。

イェンス:せっかく日本にはいいものがたくさんある素晴らしい国なんだから、もっともっとその力を信じてもらいたいと思います。

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齊藤 美紀
Miki Saito
utide代表/インテリアデザイナー
1974年東京で生まれ、中学までイラン・アメリカ東海岸で育つ。慶應義塾大学経済学部卒業後、慶応義塾大学政策メディア研究科でAUD(Architecture Urban Design)を専攻しながら、(株)スペースデザインにてマンション設計に携わる。(株)ファーストリテイリングに転職し、ロンドン進出、CIデザインを担当した後、ご主人と1年間の放浪の旅に出る。帰国後(株)CIAにてプロジェクトマネージャーとして活躍しながら、2004年に住宅専門のインテリアデザイン会社utideを設立し、多数の住宅を手掛けている。
http://www.utide.com
小枝 絵麻
Ema Koeda
Food & Wine Specialist
1978年テヘラン生まれ。 ニューヨークで高校までを過ごし、大学 入学の為に日本に帰国。上智大学国際比較化学部を卒業後、飲食店のコンサルティング企業に入社。スキルアップの為、2004年米国 CIAグレイストーン校に留学。 卒業後プライベートワイナリー「ChalkHill」で働き、料理とワインのペアリングの経験を深める。帰国後クッキングスクールの講師、国内外のレストラン企画、メニュー開発等に携わる。2008年より、米国大使館農産物貿易事務所選任シェフ、2013年より、ナパヴァレー・ヴィントナーズの駐日代表も勤める。
http://www.ema-koeda.net/
イェンス・イェンセン
Jens H. Jensen
一般社団法人 日本コロニヘーヴ協会・代表理事、エディター、コンサルタント
デンマーク出身。一般社団法人 日本コロニヘーヴ協会・代表理事、エディター、コンサルタント。
北欧の料理やデザイン、DIY など、手仕事の良さを感じられる北欧のライフスタイルを提案。デンマーク式コミュニティーガーデン「コロニヘーヴ」を日本に広める活動として、2010年「日本コロニヘーヴ協会」を設立。その他デンマークや北欧の企業の日本でのサポートや日本の良いもの・ことを世界に伝えるため、イギリスのWallpaper*誌のジャパン・エディターも勤める。