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OTONA LOUNGE

熊澤 弘之(RIVENDEL代表)イェンス・イェンセン(一般社団法人 日本コロニヘーヴ)

Text : Nino Sato
Photo : Terzo Hirano

June 7th 2014

かっこ良くてチャーミングな大人たちの現在、過去、未来…、その生き様や考え方を垣間みることができ、Mirroirウェブの読者の皆様にもっと楽しい「今」、さらにポジティブな「明日」を提供する対談企画です。

各月のゲストが翌月にはお友達を招き、ホストになるリレー形式で展開していきます。
今回は、前回のゲスト、イェンス・イェンセンさんがRIVENDEL代表の熊澤弘之さんをお招きしてお届けします。

熊澤弘之さんは、もともとは飲料メーカーのサラリーマン。在籍中に「愛・地球博」でNPO法人Be Good Cafeが手がける「ナチュラルフードカフェ=自然食レストラン」と「オーガニックガーデン=パーマカルチャー畑(※)」の運営に携わったことがきっかけで、会員制の農園グリーン・コミュニティと、古民家をリノベーションしたスタジオ、「RIVENDEL(リベンデル)」を立ち上げ、現在は代表/泥愛好家/おめで隊としてさまざまな活動を手がけていらっしゃいます。

※パーマネント・アグリカルチャー。自然のエコシステムを参考にし、持続可能な建築や自己維持型の農業システムを取り入れ、社会や暮らしを変化させる総合的なデザイン科学概念(引用:Wikipedia)。

二人の出会い

イェンス・イェンセンさん(以下、イェンス):僕が小田原で取り組むデンマーク式のコロニヘーヴの取り組みについて、つい先日大磯町から講演依頼の話を頂いたのがきっかけで熊澤さんとお会いして、実は今回で会うのは数回目。前からお名前を耳にすることは多かったんだけれど、繋がったのはつい最近。同じようなことを考えているから、すぐに意気投合しちゃった!

熊澤弘之さん(以下、熊澤):そうでしたね。僕もイェンスさんのことは前から知っていたので、色々と話せるようになってすごく嬉しい。

イェンス:では改めて、グリーン・コミュニティRIVENDELについてご紹介してもらいましょうか。

熊澤:ここはもともと祖父の農地なんですが、生産緑地地区といって、30年、または一生かけて維持管理をしなくてはならないと管轄自治体に指定されているのを「グリーン・コミュニティ」として生まれ変わらせた場所なんです。

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イェンス:生産緑地は税金を抑えられる代わりに農業を続けなければいけないんだよね。

熊澤:その通り。相続の時に悩む農家さんが多い制度なんですよ。だからせっかくの自然をつぶして更地にするケースが多い。ならば後世につながるような価値ある場所をしっかりと残しておきたい、と思ったわけです。それで、無農薬栽培を掲げた会員制農園とスタジオを運営するという道を選びました。

イェンス:でも持ち主なのに、RIVENDELにほとんどいないよね(笑)

熊澤:そう、あえてあまり寄り付かないようにしてる(笑)。メンバーの皆さんに、自分の家みたいに過ごして頂きたいですからね。

イェンス:それってすごくオープンでいいよね。日本は物理的に土地がないから、限られた素晴らしい自然を誰かとシェアするっていう感覚は素敵だと思う。

熊澤:ネイティブアメリカンの教えや仏教の“万物に神が宿る”っていう思想が好きなんです。土地は自分のものではなく、自然からの借りもの。税金だって、僕が代わりに収めているつもりでいます。素晴らしい場所だからこそ、開放してみんなで恩恵にあずかればいい。その方がいろんな人にハッピーが行き渡る気がして。

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幸せになれる場所、「RIVENDEL」

熊澤:“RIVENDEL”の名前も、そういう思いからきているんです。リベンデルとはクローバーの品種名ですが、幸せの四つ葉のクローバーは、実は、人に踏まれることでできるメカニズム。「農園に集まる人同士で幸せを産み出したい」という意味を込めて、名前をあやかりました。

イェンス:RIVENDELは名前も存在も、まさしくハッピーのシンボルね。
デンマークのコロニヘーヴの場合は“自由な使い道がある小屋付きの庭”を指していて、決して家庭菜園ではないんだけれど、ここもそうなのかな?

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熊澤:そこは、メンバーのライフスタイルに添っていますね。畑は畳一枚分から借りられるシステムの中で、ハーブを育てている方もいれば、お米や大豆を育て、味噌、醤油を手づくりしている方もいます。その人の暮らしがより良くなるためなら、何をつくっても大丈夫。ただ、化学肥料と農薬は使わずに、植物性堆肥中心で育てるルールになっています。

イェンス:たくさんの苦労や失敗を経て美味しさにつながる“食べもの”の成り立ちを肌で感じることができるから、子どもへの食育にもいいよね。

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熊澤:学校や都会では教えられないものが確実にここにはありますからね。ここのメンバーは年代も肩書きもさまざまだから、子ども世代に、仕事や生き方は自由に選べるという事実(現実)を見せてあげることができる。僕自身が地域の学校に講演をしに行くこともあるし、近所の中高校生と、面白い仕事をしている大人たちをつなぎ、RIVENDELのスタジオで座談会を開いたり、いろいろな交流の場を試みているところです。僕には二人の子どもがいますが、これからは自分が育った価値観で子育てをしない方がいいかなとも思っています。だって彼らが成人するころには、きっと社会ががらりと変わっているから。今いいと思っている教育だって、30年後は時代遅れになっているかもしれませんからね。

イェンス:僕も、子どもが自らやりたいことを選択させるほうが、生き抜く力が身に付くと思っているね。RIVENDELには、若い世代の刺激になるものがたくさんある。大人にとっては、現代の都会では失くしてしまった暮らしを取り戻せるような魅力にあふれている。畑や石釜、ガーデンキッチン、共用の古民家…、ホタルもいるし、鶏もいる。時間をかけてかまどで火をおこして食事を作ったり、とてもよい経験ができる環境がここには揃っている気がする。

熊澤:鶏といえば、ここでは週に一度だけ鶏のお世話をすれば、卵は自由に持ち帰っていい決まりです。曜日ごとに担当を決めて、「世話をする」という行為自体を分かち合っています。美味しい卵は、お世話係だけの特権!笑

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イェンス:それ、いいね(笑)。RIVENDELに集まる人々(会員)は、どんな人が多いの?

熊澤:茅ヶ崎市内にお住まいの、いわゆる近所の方たちと、都内在住の方たちが中心で、現在は50~60人ほどがメンバーになっています。年齢層は30〜40代からご年配の方までいます。意外と独身の方も多いですよ。職業も世代もバラバラな人たちが、古き良き日本の暮らし方に興味を持っていて、ここに集まってきます。
ここもひとつのコミュニティなので、会員同士で仕事やオフのお付き合いに発展したり、交流が盛ん。毎月、満月の夜にはオープンなワインバーを開いて、ご近所の方にもお越しいただいています。これが結構、盛り上がるんです(笑)。

未来のための環境づくりを目指して

イェンス:なるほど。人と人の、そして人と地域の絆づくりにも貢献しているんだね。
RIVENDELの次の展開は?運営や管理する土地を広げる予定はあったりするのかな?

熊澤:地方で土地管理を行なっている友人経由で、地元農家さんと住民の方々、そして地域施設を巻き込んだグリーン・コミュニティを形成したいという話は時々いただきますね。個人的には、都市計画化の中で農家さんによるグリーン・コミュニティを戦略的に提案し、街のブランディングに貢献することに興味を持っています。
あとは、国内外の耕作放棄地や過疎化の影響を受けた農地でグリーン・コミュニティ・ネットワークを形成できたらな、なんて思ってはいます。イェンスの故郷にも行ってみたいし!

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イェンス:僕もコミュニティづくりにはすごく興味があるし、動かし始めているところだから、その部分は積極的に情報交換をしていきたいな。それにしても、縛りが多い生産緑地を素敵に生まれ変わらせたと思う。土地に関する制度への悩みはどう解決したの?

熊澤:生産緑地は、特性上、不特定多数の人が入れない上に商売ができない仕組みだから、カフェなどの飲食販売ができない。ならば会員制農園にしながら、ワークショップやイベントで人の行き来ができる環境はどうだろう、と。地域レベルで言えば自然景観もおおむね変わらないし、地元の方の理解も得やすい。自然と人間が上手く付き合える環境を、現代の税制のなかに落とし込みたくて、法律の壁を越えて行きました。
ここでは風力発電にも取り組んでいるし、釜もあるから、災害時にも最低限のライフラインを確保できることも強みなんです。有事のやどり木としても機能できます。こうなると行政も興味を示してくれて、応援してくれるようになりました。

人生を変えた転機

イェンス:熊澤さんは生き方そのものがグリーンだけど、前職時代からこういう考えだったの?

熊澤:うん、何となく会社っていうものに違和感を感じていたかな。僕はバブルの残り香を感じられる空気感の中、社会人になった世代。人事部に配属されていましたが、社員の給料や肩書の相場感を直に見て「このまま会社に属していたら、収入も生き方も決まってしまう」とゾッとしてしまった・・・。

イェンス:そこから、今の生き方を選んだ、最大のきっかけは何だったのかな?

熊澤:会社を辞めたことですね。このまま年齢を重ねたら、予測通りの未来しかないと愕然として。したいことをする時間もなく組織に搾取される人生なんて、生きる意味がないと思った。

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イェンス:デンマークでは、福祉や介護を国が保証しているから、守られながらも自分らしく生きられる土壌がある。でも日本では、心地いいライフスタイルと労働がとても両立しにくいよね。

熊澤:日本には安心できない空気感があると思います。貯金があっても、保険に入っても不安が解消されない。でも、いらないものは必要ないんです。シンプルな生活をすれば、日々に必要な安心感は、食べ物と人の繋がりだけ。それだけあればいいんだ、というところに行き着くのかなと感じました。

幸せの価値感

イェンス:同感。ほかに、熊澤さんからのアドバイスは?

熊澤:家はローンで買わないこと(笑)。購入後27年で、再販のためのプラス出資が必要になるから、負債がどんどん増える。働き盛り世代の目的は家のローン・教育資金・老後の生活資金を得ることが三大トピックだけど、それに時間を費やすのは時代に合わないと思います。生きた証(あかし)が一目でわかる、本当にやりたいことありきの人生を選ぶべきじゃないかな。

何でそう思うかっていうとね、…実は先日、遺書を書きまして。難病の疑いをかけられて、余命1ヶ月の宣告をされたんですよ!

イェンス:えーーーっ!

熊澤:あ、結局は誤診だったんですけれど(笑)。
原因は、鶏小屋の大掃除をした時に吸ったチリとか鶏の菌による喘息めいたものだったんです。でも手術だとか、ガンかもしれないだとかいう事態に直面して、死生観が一層深まりましてね…。日頃、何となく80歳までは生きられると思って人生をプランニングしがちだけれど、思わぬところで軌道が変わる可能性は誰にでも十分にあり得る。そのために悔いのない日々を送りたいし、後世に繋がるものをしっかりと手掛けていきたいですね。

イェンス:すごく分かるな。僕もライフワークとして、人と土地をハッピーで繋ぎたい!

熊澤:鳥のさえずりや木の葉のささやきを感じ、花鳥風月を愛でながら、子どもと向き合って過ごす…、それが幸せってことなんだな、と僕は思っています。人生の価値は、お金じゃない。もっとシンプルに、自分自身が心地よいと感じるライフスタイルをミロワ世代には楽しんで頂きたいですね。

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熊澤 弘之
Hiroyuki Kumazawa
RIVENDEL代表
飲料メーカー勤務時代に出会ったナチュラルフードカフェ&オーガニックガーデンの運営を経て、会員制の農園グリーンコミュニティと、古民家をリノベーションしたイベント・スタジオ「RIVENDEL(リベンデル)」を茅ヶ崎にオープン。泥愛好家としてワークショップ講師も勤める。また、日々に埋もれがちな”おめでとう”を伝えるための具体的なプランニングを行うアーティスト集団“おめで隊”のコーディネートも務める。
http://rivendel.web.fc2.com/
イェンス・イェンセン
Jens H. Jensen
一般社団法人 日本コロニヘーヴ協会・代表理事
デンマーク出身。一般社団法人 日本コロニヘーヴ協会・代表理事、エディター、コンサルタント。
北欧の料理やデザイン、DIY など、手仕事の良さを感じられる北欧のライフスタイルを提案。デンマーク式コミュニティーガーデン「コロニヘーヴ」を日本に広める活動として、2010年「日本コロニヘーヴ協会」を設立。その他デンマークや北欧の企業の日本でのサポートや日本の良いもの・ことを世界に伝えるため、イギリスのWallpaper*誌のジャパン・エディターも勤める。