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スイス Valbella

Text : Hatsue Mogi

毎年1月の半ばにここスイスのValbellaにスキーに来ています。
もう、10年来になるでしょうか。
もとはといえば夫が小さな頃から家族と滑りに来ていたスキー場です。
スイスにはご存知のように世界のセレブが集まるスノッブな有名スキーステーションがいくつもあるのですが、ここはスイス人が彼ら自身のためにキープしているかのようなこじんまりと美しいスキー場です。

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コースは滑りやすく、たくさんのチョイスがあり、
ホテルにはスキーでくたくたになった体を癒やすスパも充実、食事もおいしくお部屋もシンプルながらセンスよくスイス風でくつろげます。
まさにHidden Gem

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キラキラしたセレブ感はないのですが本当のくつろぎを感じさせてくれる心地良さがあふれています。

スイスという国はかなり特殊な国。永世中立国、EUにも加盟せず、独自の道を歩んでいます。
また世界のお金持ちのためにプライベートバンクが立ち並び、各国のプリンスたちのための学校や上流階級のお嬢ちゃまのためのフィニシングスクール、ホテルスクールも有名です。
素晴らしい自然の風景は癒やされますが、そのためか物価はとても高く、スーパーでチョコレートにビールにチップスかなにか買ってレシートを換算してビックリしたことがあります。

ホテルについて3日目、ようやくスキーに慣れてきた夜、ふとCNNを見ていて夫と私は唖然としました。
「スイス・フラン暴騰、一晩で一気に20%」と言うニュース。
スイス国立銀行は対ユーロでのスイスフランの上限を撤廃すると発表したのです。スイス国立銀行によるスイスフランの対ユーロ上限は2011年のユーロ危機から設定されており、欧米投資家にとっては避難通貨とされたスイスフランは対ユーロレートではこの上限設定で安定的に推移してきたのですが、ユーロ圏経済はデフレ危機に直面しており、ついに欧州中央銀行も量的緩和に踏み出すようです。これによってユーロにますます下落圧力がかかっているのですが、その中で安定していたスイスフラン対ユーロでの上限撤廃で他の通貨に歩調を合わせるべく急激に上昇したのは当然とも言えるようです。

ホテルの会計も暴騰?
そんなことなら事前にお支払いしてくればよかったなんて思ったり(笑)。

数少ないホテルの外国人客は一応にショックを受けてパトロンに話してみたり落ち着かない様子。
ところがパトロンももちろん寝耳に水で、こうなると外国人客も減るけど、スイス人もお隣のイタリアやオーストリア、フランスに行けばずっとお得なわけだから減ってしまうに違いないと苦い顔です。

スイス人にはスイスで仕事をして周辺の国に住む人たちもたくさんいます。そういう人たちにはこれはまるでクリスマスと同じように嬉しい出来事だったようですが。

まあ、それはそれ、せっかくここまで来たのですから楽しまなきゃ、と気を取り直しArosaの頂上までロープウェイを乗り継いで登ってみました。
降りるとそれはそれは寒いのですが、スキー客たちはよ~しという掛け声が聞こえてくるようなはしゃぎぶり。人知れず不安を抱えているわたしの武者震いも寒さのせいにしか見えないでしょう。

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カチャカチャっと金具を締め次々に滑り始めるヘルメット姿の人たち。ヘルメット姿なので一見ではわかりませんが実はお年寄りも少なくありません。
ああ、行くしかないんです。そう降りるしか。スイス人の中、確実に私は一番下手。それでもなんとか一段下のリフトまで降りると、素晴らしいお天気になり、そこにはまさに天空のカフェテラスがありました。

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ヨーロッパの人々は普段日照に飢えているせいで、四季を問わずテラスが大好きです。
彼らはこんなテラスだったらお日様が照っている限り鼻水を拭きながらも絶対座ろうとします。
私達もここでスープをいただきました。真っ青な空の中その美味しかったこと。
ピンとドライな空気のせいでさほど寒さは感じません。
スイスの醍醐味ってこんなところにもあるのでしょうか。

Arosaといえばここにも夫の子供時代の思い出があり、滑って訪ねることにしました。
彼の祖父が結核を患って長い間滞在したサナトリウム、現在は瀟洒なホテルになっています。
そんな事情を話して写真を撮らせてもらったりしているうちに少し無口になった彼、まあそっとしておきましょう。

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さて、帰りはこんな森林コースを通ります。
膝はそろそろガクガクしてきましたが、ゆっくりと景色を楽しみながら恐怖心なしに降りていけるこんなコースは私の大好物です。

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何日か吹雪が続き、また良いお天気、となればやっぱり天空テラス目指していくと、目の前にこんなお兄さんがいました。スノーバイクです。これで滑り降りるつもりなのです。身一つのスキーでも必死なのにこれで行けるの?
彼は全然OKだよと言わんばかりにポーズをとってくれました。素朴なスイスの若者、若いって素晴らしい。

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10日あまりのスキーもラストデイになりました。
朝食のあと消えたなと思っていた夫、日焼けした顔を少しほころばせながら帰ってきて一言。
「来年の予約してきたよ」
実は密かに今年が最後かと思っていた私。
そう、それなら次回こそ、スキー用の下半身トレをやってから来てみますか。
スイス・フランが暴騰しようが、筋力に陰りが見えようが、全く滑れなくなるまで来るというのが彼のモットー。
スキーだけでなくノスタルジーも強く作用しているようです。
ならばとことんお付き合いしますか(笑)。

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茂木 初恵
Hatsue Mogi
東京都出身、ベルギー在住20年。ベルギー人の夫、大学生の息子とジャックラッセルテリアとアントワープ郊外に暮らす。趣味は音楽、スポーツ。「無我夢中」の文字がしたためられた書を友人から贈られるくらい幾つになっても熱く、今だからこそわかる日々の楽しみを感謝しながら享受中。