この世界は広くて狭い。
今回、ご紹介するのは、東欧/異色の華ハンガリーの愛のお話です。
数世紀前のヨーロッパの大国オーストリアハンガリー二重帝国、ハプスブルグ家から花開いた大きな国のなごりを今もなお、匂わせるハンガリー。
しかし、どんなに花を開いた大国でも、このヨーロッパの盆地に位置する国の冬は厳しい。骨の芯まで凍るような寒さに、若い恋人たちの寄り添い語らう時間は長く熱い。まるで、明日には永遠の別れが待っているようである。
年を重ねるにつれ、恋人たちの物理的距離は遠くなる様子は、日本よりも著しく、浮き彫りに現れる。それは、甘い幻儚く消えて行くのである。
21世紀とは思えないほど、寂れた鉄道や、路面電車では、恋人の膝の上にしか女性は乗らない。なによりも暖かい膝の上が存在するが、年を重ねたもの達は自分にも訪れたであろう甘い記憶を遠目に眺めている。
映画の愛情豊かな表現は永遠ではないと憂いているような光景にしばしば出会う。
夫を早くして亡くした老婆は、厳しい表情で若者の愛の語らいを見つめ続ける。この凍り付いた大地の上でハンガリーの人々は、儚くも情熱的に愛を語らい、その先にいったいなにを見いだすのだろう。
愛は互いがレールであり、車両になる道のりならば、恋はいつでも、停車駅に起きたドラマに過ぎない。
ハンガリーの憂いのドラマだけは鳥の語らいのように見る事は簡単だが、
風の吹く冷たい冬にも、夏の照りつける太陽の下でも愛だけは空気のように目に見えなくとも存在しているのだ。