今回はフィリピンからお送りいたします。
大分前のことになるが、仕事でフィリピンに行かせていただいた事がある。
仕事だったので、その島で一番良いホテルに一人で五日間、ロケハンをするため、船までチャーターしていただいて、自由に周りの海を船長となって舵を取り、いろいろな島を巡った。
名前もなさそうな島に3家族しか住んでいなさそうな島。浜辺に教会しかないような島。また、大都会で欲しいものはだいたい見つかるような島。絵になる景色を探して、好き放題航海し続けた。
お金でフィリピン人女性を買って、ホテルに連れ込む外国人の姿は物価の安い国では、当たり前に見られる高級ホテルの真の姿がうかがえる。一人でいた事もあり、外の本当のフィリピンと美しい絵を探しに行った。
高級ホテルが連なる裏手の路地に入ると打って変わって、スラム街に入る。屋台にたかるお客様に紛れるハエたちの群れ、美味しそうな香りに、木の屋根から差し込む光は、埃の行方を暗示する。どこか後ろめたささえ感じられる外国人の高級ホテル内の雰囲気とは打って変わって、街は汚く、活気があり、どこまでも真っ直ぐで人間臭い。
・人の海に揉まれる時、人は自分の鏡となって、自分に返ってくる。
手で「L」の字を作って愛のサインを送るスラム街の青年たち↓
ホテルの料理に比べて、屋台のご飯は信じられないほど美味しく、その夜から、体からみなぎる元気さえ感じられた。あの、屋台の料理はなんだったのかあまり理解はしていなかったが、今でも、あの料理を食べたいと思っている。
それ以降、スラム街と海の航海を行き来し、ホテルには寝に帰る以外戻ることはなかなかなかった。スラムの世界には「人情」がはびこっている。そして、「人情」でスラム街眠りに着く。人情のある町には、人への反応がそのまま自分に返ってくる性質がある。自分自身が周りの人を温かく包み込む寛容さを持ち合わせる限り、周りの人は、自分の気持ちと比例して、そのまま鏡のように返してくれる。
高級ホテルの中の世界だろうが、スラム街だろうが最後に人を癒し、慰め、人生が素晴らしいと感じられるのは、人情という生地があって初めて実感できるものなのだと確信した旅だった。
人は、人の間で自分を見つめ、人の間で、死んでいく。
人の情という波にもまれ、今日も人の間の波を航海していくのだ。