「Revive Japan – Travel Note」と題する本コラムでは、コレカラージュのエンジニア/エディターでもある長谷川圭一が、日本で再生・活性化されるべき事業や文化にフォーカスし、その分野で活躍されている方々を特集していきます。
前回は、筆者が元々関心を持っていた「木を食べる」ことに尽力した一人である、料理家 石本静子さんのお話をうかがいに、石本さんの営む「つぶ食 いしもと」へと足を運びました。
第四回は、その食べられる木の原材料となった、月齢伐採、葉枯らし天然乾燥による木を製材する、天竜T.S.ドライシステム協同組合へおうかがいし、理事である、森下幸司さん、榊原康久さんに話をお聞きしました。
静岡県は水窪町の山あいにある「天竜T.S.ドライシステム協同組合」では、これまでの話でも挙げられた、「月齢伐採」「葉枯らし天然乾燥」による木の製材を行なっています。天竜T.S.ドライシステム協同組合の中心となり活躍されている、森下さん、榊原さんに、天然乾燥の木材の良さや、現在の林業についてお話をうかがいしました。
榊原康久(以下「榊」).私たちの製材所では、伐採の後、まず「葉枯らし」を行います。伐採は、秋・冬の月の暦に合わせて伐採をしているのですが、伐採後、バーコードを付けて、いつ、どこの山で切ったのか、ということが分かるようにしています。葉枯らしは3ヶ月以上行います。葉枯らしを行うと(人口の乾燥に比べて)木の香り、色、艶が良くなります。ですから、木材に携わっている方は、自分の家を建てるなら、葉枯らしや天然乾燥をした木で家を建てたいと言います。
伐採後の出材は、架線で運搬します。最近では、道を山に付けて車で運ばれていますが、この辺りは、山の勾配も急で、車で乗り入れると山が荒れてしまいますので、そのような方法で木材を運んでいます。
運ばれた木材は製材し、はじめ外に置きさらしておくことで、含水率も下がって、木の中の灰汁が取れます。ただ、長期間、風雨にさらすと痛んでしまいますので、乾燥用のストックヤードに貯めておきます。
榊.天然乾燥と人工乾燥の違いですが、特に高温の人工乾燥の場合、木材の内部が割れやすくなり、強度が下がってしまいます。又、中の油分がタールとなって染み出してきて、黒くなり流れ出てしまいます。そうすると、色艶も悪くなれば、木の香りも半減していきます。
この油分が木の香りを出していますので、木の匂いを忌避するシロアリは、油分が出ていきやすい(木の匂いの少ない)人工乾燥の木材で増えるようになります。
強度の面で、人工乾燥は、天然乾燥に比べて木がしなることなく、もろくなります。天然乾燥の木ならば、地震などで万一の場合は、柱がしなっている間に避難することができます。
榊.これらのデータは、建築家の方の著書などでも取り上げられていますし、建築・設計事務所の方々からも、人工乾燥よりも、天然乾燥の方が耐久力があると言う意見が、いくつも出ています。
しかし、葉枯らし天然乾燥というのは、製品になるまで約2年、場合によっては、それ以上かかりますし、天然乾燥を行なっている製材所も日本全体の一割にも満たないといった状況で、天然乾燥の木材を使われる機会が少なくなっています。
そのような状況でも、私たちは、こうした方法を貫いております。更にこだわっている点としては、旬季月齢伐採(商標登録済)があります。秋から冬に木を伐採するのですが、その際、月の暦に合わせて木を切ります。
当製材所では、2003年にオーストリアの営林家であるエルビン・トーマさんが日本で月齢伐採について講演をし、その話を聞いた、天竜T.S.ドライシステム/榊原商店の先代 榊原正三が採用したのが始まりです。
新月の1日前、満月の1日前に伐採した木を、それぞれ土に埋めておいたところ、新月の前に切った木はなにも変化がありませんでしたが、満月の前に切った木にはシロアリに食べられてしまいました。
榊.京都大学樹木細胞学分野の高部教授に調べていただいたところ、満月の場合、でんぷん質が残っていましたが、新月の場合、でんぷん質は綺麗さっぱり無くなっていたという結果が出ました。このプロセスで一番大事なのは「葉枯らし」です。この「葉枯らし」という工程を経ないと、効果は現れません。
新月伐採自体は、500年前の建築業界最古の本「愚子見記」にも記載があるほど、日本古来伝えられてきた伐採方法ですし、フランスでも月の暦に合わせて切るということが昔から習慣化されていると聞いています。又、伊勢神宮の式年遷宮も新月に合わせて行うそうです。
Q.T.S.ドライシステム協同組合では、こうした天然乾燥の製材を行なっているとのことですが、実際、どれくらいの需要があるのでしょうか?
榊.一般の消費者の方は、このような情報を知らない方がほとんどですが、関心を持ってくれる建築士や工務店、そして、一般の方にも、こうした情報を広める努力はしています。
又、家を建てる方が、工務店等から家の木材について説明が無いことに疑問を持ち、自分で情報を調べて、私どものところへ問い合わせてきた、といったこともあります。
森下幸司(以下「森」).木材にこだわっている建築士さんや、化学物質のある家に入るだけでアレルギーが出るような方は、木の大切さをわかっていますので、そうした方の口コミで、ここに辿り着いてくるお客さんも多いです。
榊.うちの木材を使って家を建てた施主さんの中には、天然乾燥の木のファンになってくれて、「自分が住んでいる家をモデルハウスとして、新しいお客さんを招いていただいても構わない」と言ってくれる方もいらっしゃいます。
Q.全ての方が、こうした素晴らしい木材を使うのが理想だとは思いますが、大量生産の世の中ということも考えると、本当に良質なものを必要としている人に届くネットワークが広がると良いと思います。
森.製材工程も約2年かかりますし、大量生産には向きませんので、「本当に欲しい」と言ってくれる人に、少しでも多く届けられれば、と思っています。
Q.天竜T.S.ドライシステム協同組合側から、天然乾燥や月齢伐採について、なにか積極的に普及活動されてたりしているのでしょうか?
榊.都内のイベントにも出展していますし、私自身も「木暮人倶楽部」という社団法人の理事をやっていたりします。又、シックハウスで悩まれている方向けの出展など、発信自体は積極的に行なっています。
ただ、家を建てる人にとっては、関心を持っていただけるのですが、そうでない場合、木の色艶や香りは、実際手に取ってみないとわかりませんので、なるべくイベントなどに出展し、木に触れていただく機会を作っています。
Q.建物の建材以外に、用途を広げたりはしていますか?
榊.建材に使わない木も沢山ありますので、色々考えてはいますが、現在は、例えば、樽脇さんのところの「おがっティー」であったり、そういった形で少しずつ広げているところです。
Q.僕がここへ辿り着いた一つの理由に、「木を食べる」ということがありますが、木を食べること自体については、どう思われますか?
森.正直、私自身は「食べる」という感覚は無いですね。いつも仕事で(木材として)見ているものですから。
Q.むしろ、木をカットしている時、勝手に口に入ってくるくらいのものですものね(笑)僕は、ゆずっていただいた「おが粉(スーパーウッドパウダー)」を直接食べているくらいなのですが、現場の方々はどう感じたのかなと思いました。
森.やはり、そのままだと食べられないと思いますが、志村先生がやられたように、パウダー状にして料理に混ぜたりすれば、口当たりも良くなって、食べられる(体に害はない)とは思います。
榊.私も、最初聞いたときは、半信半疑でしたね。製材所にいると考えつかないことなので、すごい発想だなと思ったのが、はじめの感想です。ただ、父(T.S.ドライシステム協同組合の先代)が、その話をしている時に、私がぽろっと一言いったことがきっかけで、この話が本格的にスタートしたんです。
材質で言うと、人工乾燥の場合、乾燥過程で焦がしてしまっていますから、もし食べるとしたら美味しく無いですよね。ですから、食材として考えるならば、天然乾燥の木でないと、美味しくは口にできないと思います。
この「木を食べる」ということも、私どものところだけではなく、他に天然乾燥をされている製材所から、「どこどこ産の木」と言ったように、認知されれば良いと考えています。
Q.個人的には、「木を食べる」ことに強い関心があって、ここに至っていますが、一つの文化として、木を口にすることが、タバコや葉巻、お茶やコーヒーのような嗜好品として広まると面白いかなと思っています。
林業全体については、現在、どのような状況ですか?
榊.林業は、成り立たない状況ですね。山から普通に木を切って、市場に出すと、赤字になるだけです。どうしてこうやっていけるかというと、補助金があるからです。よく「大根より安い」言っているくらいです。木は何年もかけて育てますが、木を大根一本と同じ体積にしても、大根の値段より安いということです。
森.昭和50年くらいまでは、杉の丸太が立米(りゅうべい/㎥)あたり、35,000円くらいしていたのが、今では、15,000円くらいまで下がってしまいました。40年も前の半分以下の値段になってしまったんです。物価も人件費も上がっていますから、とても成り立つわけはないです。
Q.従事する人も減っているのでしょうか?
榊.地元でお願いしている人では、70代、60代です。「緑の雇用」という国の政策で、従事する人を定着させようとしていますが、きっかけとしては良いものの、大きな怪我や事故の割合が高いため、離職されてしまう方も多いのが現状です。
伐採から玉切りを全て機械で自動化することもできますが、斜面がなだらかである必要もあり、そのための道を作らなくはいけません。そうすると、今度は、結果として山が荒れてしまいます。もっとも、その機械自体も、数千万円はしますので、木の値段が下がっているのに、それに見合った投資になりません。
Q.現在は、大量生産の時代ですが、それ故に、これからは、実際の体験であったり、大量生産では得られないものに価値が見出されると思っています。
林業の中では「天竜杉」の名前が認知されていると思いますが、「葉枯らし天然乾燥」をはじめとする、素晴らしい木の文化を広めるお手伝いができればと思います。
風通しが良く雨にさらされないストックヤードに保管された天竜杉
出荷される一本一本には、バーコードが貼付され、産地、伐採日、製材日などがトレースできる仕組みになっている
2016年12月15日・16日に開催される「アレルギーエキスポ」に、天竜T.S.ドライシステム共同組合が出展いたします。
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» 天竜T.S.ドライシステム協同組合
» 天竜T.S.匠の会